優梨香のティールーム / 特別企画 " 銀英伝 風 紅茶物語 "( 後編 )


☆ この コーナーは、kj さんのホームページとの共同企画で構成しています。
企画の趣旨と物語の前半は、kjさんのページをご覧になってくださいね。


ラインヒルトは、コーヒーミルの角度を傾けて、ドリップを埋めつくすコーヒー豆にじっと見入っていた。
「コーヒーをお飲みですか、陛下」
「ああ、コーヒーはいい」 ラインヒルトは応え、声のした方を振り向くが、赤毛の親友の姿はない。
「お時間です。そろそろ、ティールームへどうぞ。」艦内通信が ラインヒルトに知らせる。
「ああ、そうだな、すぐに向う。」

ティールームでは、ヤムがティーポットを温めている。「うまく入るといいんだがね。」
「提督、勝算はお有りですか。」ミリアンがわくわくしながら尋ねる。
「うーん。美味しい紅茶を煎れるのは簡単さ。ただ、それを美味しいと感じるか、まずいと思うかは、飲んでみた本人が決めることであって、その人の好みはもちろん、とりまく環境、その日の体調や気分なんかが重要なんじゃないかな。わたしに、できることは少しでも美味しそうにする条件を用意することくらいさ。」
室内にはラベルのボレロがゆっくりと流れている。ラインヒルトが席に着くと、運ばれたのは、紅茶ではなく、コーヒーであった。「むっ、確かヤムは俺に紅茶をのませようとしているはず、しかし、これはどうみてもコーヒーではないか。」カップの中の黒い液体を不思議そうに眺める若き皇帝。「これは罠。コーヒーに見せかけた紅茶か?」アイスブルーの瞳に困惑の色がよぎった。「下げてくれないか。今、コーヒーをのんできたばかりなので・・。」
ミリアンは言われた通りにし、コーヒーカップは退却を余儀なくされた。


ラインヒルトとヤムの会談は続いていた。今回はごくプライベートな会談だったせいか、銀河の歴史についての考察や戦いの想い出話など、なごやかに話は進み、キルヒヤイスのことも話題に登った。
ラインヒルトもついつい、夢中で話し続けると、心の渇きがみたされるのに反比例して喉の渇きを覚えてくる。
彼は先程から棚に並べられた深緑色の缶が気になっていた。そのことにふれようとしてはヤムは話をかわしてしまう。とっておきの箱を取り出す。「姉上から頂いたケーキを持ってきたのだが・・・。」
「ミリアン。紅茶をお持ちしなさい。」「はい、提督。」ミリアンは砂時計をひっくり返し作業する。一粒一粒落ちて行く砂が散りばめられた銀河の星々を彷彿させる。ますます、まちどおしくさせた。
暫くしてティーカップが運ばれてきた。ベルガモットの香りが漂う。アール・グレイだ。ヤムのことだ、中国系の葉をつかっているはず。ヤムはなぜ、あの缶を使わないのだろう。ついにラインヒルトは攻勢にでる。「中国茶はきらいだ。そちらの緑の缶をほしいのだが・・・。」
念願の深緑の缶が開けられた。大粒の茶葉に白い葉がポッリと入っている。ホワイト・チップと呼ばれる上質のものである。おそらく、セイロンとアッサムのブレンドだろう。ミルクは温めないまま入れた。
「おいしい。私は銀河という大海を手にいれたというのに、カップ一杯の紅茶の海すら手に入れていなかったのか。帝国に来てティールームの指揮をとるつもりはないか。」
「丁重にお断り致します。私はただ自由に紅茶を楽しみたいだけです。コーヒーの存在根底からを否定するつもりはありません。ただ、コーヒーも紅茶もあって、コーヒーよりも紅茶が好きなのです。」


「ヤムめ。してやられた。」ラインヒルトは呟いたが、その表情は満足げであった。
「ラインヒルト様、お口直しにキリマンジャロでも、お煎れ致しましょうか。」ヒルデが問い掛けた。
「冗談ではない。(せっかくの後味が消えてしまうではないか。)」

数日後、ヤムのもとへ宅急便が届けられた。「ミリアン、開けてみてくれ」
「提督。紅茶の詰合わせセットです。」
「ダージリン星域のティーバックの紅茶か。恐縮するね。」
今度はティーバックのものをおいしく煎れてみろということだな。ヤムはそう諒解した。
「どうしましょう。お返しはなさいますか?」ミリヤンはたずねた。
「先方もそんなものは期待していないのじゃないかな。いいさ、放っておいて」

『ティールームの会戦』はこうして終結した。